大阪地方裁判所 平成8年(ワ)3428号 判決 2000年6月22日
原告
有限会社大西化成商事
右代表者代表取締役
【A】
右訴訟代理人弁護士
本渡諒一
右訴訟復代理人弁護士
伊藤孝江
同
木島喜一
右補佐人弁理士
【B】
被告
有限会社川原商店
右代表者代表取締役
【C】
右訴訟代理人弁護士
薄木昌信
右補佐人弁理士
【D】
主文
一 被告は、別紙イ号物件目録記載の物件を販売してはならない。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを六分し、その五を原告の、その余を被告の負担とする。
四 この判決の第一項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告は別紙イ号物件目録及びロ号物件目録記載の各容器を販売してはならない。
二 被告は原告に対して、金九二〇万円及びこれに対する平成八年四月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 基礎となる事実(いずれも争いがないか弁論の全趣旨により認められる。なお、以下、書証の掲記は甲1などと略称し、枝番号のすべてを含む場合はその記載を省略する。)
1 当事者
原告及び被告は、いずれもいかなご用容器を販売する会社である。
2 原告商品の販売
原告は、別紙原告商品目録1(検甲3の1)及び別紙原告商品目録2(検甲3の2)各記載のいかなご用容器を販売している(以下「原告商品1」などといい、まとめていう場合には単に「原告商品」という。なお、原告商品の販売開始時期については争いがある。)
3 原告が独占的通常実施権又は専用実施権を有する実用新案権
訴外【E】、【F】及び【G】は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」という。)を共有しており、原告は同実用新案権につき、平成一〇年五月一五日から同一一年一月一七日までは独占的通常実施権を、同月一八日以降は専用実施権を有している。
(一) 考案の名
連結容器
(二) 出願日
平成五年五月一七日(実願平五ー三一一一四)
(三) 登録日
平成一〇年五月一五日
(四) 登録番号
第二五七七八六五号
(五) 実用新案登録請求の範囲
本件実用新案権の実用新案登録出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲の記載は、本判決添付の実用新案登録公報(以下「本件公報」という。)の該当欄記載のとおりである(以下同実用新案登録請求の範囲記載の考案を「本件考案」という。)。
4 本件考案の構成要件の分説
本件考案の構成要件は、次のとおり分説するのが相当である。
A 魚介類を適宜分量に区分け収容した状態で茹でることができる複数の単位容器と、各単位容器間に介在配備され複数の単位容器を連結する連結部とから成る連結容器において、
B 上記連結部は、中央部に括れ部を有する長方形の板体で、縦長の両端面がそれぞれ対応する単位容器の外面上部に連続し、
C 上記括れ部は単位容器に連続する左右端部に対し厚みが薄く且つ短尺で、
D 下部には下凸方向の曲げモーメントにより集中荷重を受ける破断誘導用の割り口を備えた
E ことを特徴とする連結容器。
5 被告の行為
被告は、平成七年春ころから、別紙イ号物件目録記載の図面により表されたいかなご用容器(以下「イ号物件」という。検甲1の1))及び別紙ロ号物件目録記載の図面により表されたいかなご用容器(以下「ロ号物件」という。検甲1の2)を販売している(各物件の構成及び販売終期については争いがある。)。
イ号物件は、本件考案の構成要件A、C、D及びEを充足する。
二 原告の請求
1 不正競争防止法に基づく請求
イ号物件の形態は原告商品1の、ロ号物件の形態は原告商品2の各形態を模倣したものであるから、被告がイ号物件及びロ号物件を販売する行為は、不正競争防止法二条一項三号に定める不正競争行為に該当する。したがって、原告は、被告に対し、同法四条に基づき、平成八年一月一日から同年三月末日までのイ号物件及びロ号物件の販売により原告が被った損害の賠償として、四四〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である同年四月一一日から支払済みまでの遅延損害金の支払を請求する。
2 実用新案権侵害に基づく請求
イ号物件及びロ号物件は本件考案の技術的範囲に属するから、それらの販売は本件実用新案権についての原告の独占的通常実施権及び専用実施権を侵害する。したがって、原告は、被告に対し、①本件実用新案権の専用実施権に基づきイ号物件及びロ号物件の販売の差止めを請求するとともに、②平成一〇年五月一五日から平成一一年六月四日までのイ号物件及びロ号物件の販売により原告が被った損害の賠償として、四八〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成八年四月一一日から支払済みまでの遅延損害金の支払を請求する。
三 争点
(不正競争防止法関係)
1 イ号物件及びロ号物件の形態は、原告商品の形態を模倣したものか。
2 原告の損害額
(実用新案権侵害関係)
3 イ号物件の構成
4 イ号物件は本件考案の構成要件Bを充足するか。
5 被告は、イ号物件及びロ号物件を販売するおそれがあるか。
6 原告の損害の有無及び額
第三争点に関する当事者の主張
一 争点1(形態模倣性)について
【原告の主張】
1 従来のいかなご用容器(検甲4)の形態と原告商品の形態を簡単に比較すると、従来品の形態は、単位容器と単位容器の鍔接触部が連続した一体の板状になっているのに対して、原告商品の形態は、単位容器と単位容器の鍔接触部が一体となっておらず、接触部は細長い短冊状の隙間が設けられて単位容器同士は分離しているような形状で、その二枚の単位容器が接触する鍔部又はその下部において両単位容器をつなぐ細幅の連結部が設けられており、そのために、原告商品における単位容器の鍔部と鍔部の連結形態は、従来品に見られなかった形態部分として原告商品の特徴的形態部分となっている。すなわち、従来品は一個の大きな容器が小さく区分けされている印象を与えるが、原告商品では複数個の小容器をひっつけたという印象を与える。
原告商品とイ号物件及びロ号物件の形態を比較すると、それらはともに、単位容器と単位容器の鍔隣接部が一体となっておらず、隣接部は細長い短冊状の隙間(透孔)が設けられて単位容器同士は分離しているような形状で、その二枚の容器が接触する鍔部の下部において両単位容器をつなぐ細幅の連結部が設けられている点で共通しており、右形態部分はこの種の従来品にはなかった商品形態上の特徴となっている。また、この特徴は単位容器ごとに分離するための切断具(例えばナイフ)を必要としない機能を想起させるものとして重要で、看者はこの特徴部分を見て従来品との形態の相違を強く認識する。もっとも、右以外に、容器側壁の透孔の形状あるいはリブの本数と形状等において少し相違するところがあるが、これらの相違する形状部分は、この種の容器においてはありふれた形状であって、特徴的な部分ではない。
したがって、イ号物件の形態は原告商品1の形態と、ロ号物件の形態は原告商品2の形態と、それぞれ実質的に同一である。
2 原告商品1の最初の販売時期は平成五年八月二五日ころであり、原告商品2の最初の販売時期は同年一二月九日ころであるが、原告商品は、ナイフを用いずに、てこの原理で簡単に単位容器を分離することができるという効果により、爆発的なベストセラーとなった。被告は、そのような状況を見て、イ号物件及びロ号物件を平成七年春ころから販売したのであって、被告による右各物件の販売は、原告商品を主観的に模倣してなされたものである。
【被告の主張】
1 原告商品1では、二枚の容器が接触する鍔部の下部において両単位容器をつなぐ細幅の連結部が設けられており、鍔部同士が細幅の連結部でつながっているのに対し、イ号物件においては、各単位容器が隣接する各隙間には、鍔部より下方に位置して、当該隣接する単位容器の側壁間を連絡する連結部を各二か所設けてあり、側壁リブ同士が連結されているという相違がある。
そして、この相違によって、原告商品1の連結部の形状では、隣り合う容器の側壁間には大きな隙間が生じるため、これによって隣り合う両容器は連結部を中心として山形に撓んでしまい、そのために連結部が不意に破壊される等の問題点があるのに対し、イ号物件の連結部の形状では、このようなことがないという差異がある。
したがって、イ号物件の形態は、原告商品1の形態と実質的に同一でない。
2 また、原告商品2とロ号物件の間においても、連結部の形態が明らかに異なっているから、ロ号物件の形態は、原告商品2の形態と実質的に同一でない。
3 被告は、1で述べた原告商品1の問題点等を研究して、側壁リブ同士を連結したイ号物件及びロ号物件を独自に開発したもので、主観的にも模倣性はない。被告がイ号物件及びロ号物件の販売を開始した平成七年春ころの時点では、原告商品2を含めて、側壁リブ同士を連結したいかなご用容器は販売されていなかった。
二 争点2(不正競争防止法関係の損害額)について
【原告の主張】
1 被告はイ号物件を平成八年一月一日から同年三月末日までの間に販売価格二六円で少なくとも四〇万枚は販売した。この利益は一枚当たり四円であるので、被告はイ号物件を販売することで少なくとも一六〇万円の利益を得、これが原告の被った損害の額と推定される。
2 被告はロ号物件を平成八年一月一日から同年三月末日までの間に販売価格二八円で少なくとも七〇万枚は販売した。この利益は一枚当たり四円であるので、被告はロ号物件を販売することで少なくとも二八〇万円の利益を得、これが原告の被った損害の額と推定される。
【被告の主張】
争う。
三 争点3及び4(イ号物件の構成と構成要件B充足性)について
【被告の主張】
1 別紙イ号物件目録の記載中、次の部分は否認する。
(一) 「二 構造の説明」中の(2)の構成
(二) 「三 作用効果の説明」中の(1)の効果
2 本件公報の図4及び5からすれば、本件考案における連結部10の位置は、袴部の設けられていない単位容器の場合には周面4の上部に直接連結状に設けられており、袴部の設けられている単位容器の場合には袴部5の垂下長さと連結部10の縦長さをほぼ同じ長さに設定して右袴部に連結部を設けた構成であることを要する。これが、本件考案の「両端面がそれぞれ対応する単位容器の外面上部に連続」する構成の意義である。
これに対し、イ号物件では、連結部は袴部に設けられておらず、単位容器の外側面に縦設した外リブ同士を連結部で連結しており、連結部の「両端面がそれぞれ対応する単位容器の外面上部に連続」する構成を有しない。
本件考案の構成要件Bは、それにより、単位容器と連結部の接面面積が大きく、その固定強度が大となって、単位容器にかかる左右方向への引張力などによって連結部と単位容器が意に反して分離するおそれがないという作用効果、すなわち、連結部を縦長の長方形の板体にしたことにより、単位容器の離反又はねじれを防止するリブ的効果があるとされている。しかし、イ号物件では、単位容器の外側面に縦設した外リブ同士を連結部で連結しているから、右作用効果を有しない。
なお、曲げモーメントを利用する、本件考案と同様の構造の連結部を有する容器は、乙22により本件考案の出願前に公知であった。
3 また、仮に原告主張のとおり、イ号物件が連結部を上下に伸ばしただけであると把握するならば、右連結部は略H形の板体というべきであり、「長方形の板体」という構成を充足しない上、その縦長の両端部の上は単位容器の外側面上部に連続し、下は単位容器の外側面下部に連続することになり、「単位容器の外面上部に連続」する構成を充足しない。
【原告の主張】
1 イ号物件は、別紙イ号物件目録記載の構成と作用効果を有し、本件考案の構成要件Bを充足する。
2 被告は、イ号物件における連結部の位置は、構成要件Bの「(連結部の)両端面がそれぞれ対応する単位容器の外面上部に連続」する構成を有しないと主張する。
しかし、まず、実用新案登録請求の範囲の記載では、連結部の位置に関しては「単位容器の外面上部に連続し」とあるだけであって、右記載以外の位置限定はない。そして、「単位容器の外面」とは、単位容器の外側の面のことであるから、単位容器に袴部がないときは容器壁面外側はすべて「単位容器の外面」であり、単位容器に袴部があるときは垂下した袴部の外側も「単位容器の外面」である。
次に、「単位容器の外面上部」の「上部」の点について検討すると、本件考案の作用効果は、曲げモーメントによる曲げ力を連結部に作用させて、容易に連結部の括れ部を切断するものであるから、かかる作用を生じさせる位置であればよく、袴部がある場合にはその垂下外面という制限があるわけではない。したがって、「上部」とは、単位容器の高さの二分の一の位置よりも上にあれば足りるのであり、袴部の垂下壁の下部に連結部が配設されても、当該連結部が単位容器の外面上部にあれば、それで足りる。
被告は、本件明細書中の実施例に袴部の垂下壁の下部に連結部が配設されている例が記載されていないことを奇貨として、連結部が袴部の垂下壁の下部にあるものは排除されると主張しているようであるが、実施例はあくまでも当該発明とか考案の技術思想を理解するに必要かつ十分のものであればよく、技術的範囲が実施例に限定されるわけではない。
以上の意義からすれば、イ号物件の連結部の位置は、袴部の垂下壁の下部ではあるが、単位容器の外面の上部に連結していることは明らかである。
3 被告は、イ号物件は、単位容器の外面に直接連続しているのではなく、外リブに連続しているとの趣旨を主張をしている。
しかし、イ号物件においては外リブに連結部を接続したのではなく、連結部を上下に伸ばしただけであり、外リブがあってそれに連結部を接続させたものではない。
また、容器外面に連結する場合の「連結」は直接的「連結」だけに限定されず間接的「連結」も含まれ、百歩譲ってイ号物件がリブを介して連結部を有するとしても、この状態はこの間接的「連結」に相当するものである。
4 右にみたとおり、被告のイ号物件が構成要件Bを欠いているとの主張は失当である。
四 争点5(被告がイ号物件及びロ号物件を販売するおそれ)について
【被告の主張】
1 被告は、本件実用新案権が登録された平成一〇年五月一五日の時点で、イ号物件の在庫を約三〇万枚有していたが、本件実用新案権が登録されたことから、平成一〇年一二月ころから平成一一年四月ころまでのシーズンは、加熱てこでイ号物件の在庫物を破断誘導用の割り口を除去するように改造したいかなご用容器(検乙3)を販売した。また、平成一一年一二月ころにはイ号物件の金型を改造して破断誘導用の割り口を具備しないようにし、同年一二月ころのシーズンには改良後の金型で製造されたいかなご用容器(検乙5)を販売した。したがって、被告が、イ号物件を販売するおそれはない。
2 被告は、平成一〇年一一月ころにロ号物件の金型を改造し、検乙4のものに改造した。右改造当時、ロ号物件の在庫はなかった。したがって、被告は、本件実用新案権の登録後はロ号物件を販売していないし、今後ロ号物件を販売するおそれもない。
原告は、平成一一年三月に検甲5の容器を入手したと主張するが、検甲5は被告の商品ではない。
【原告の主張】
1 いずれも否認する。
2 被告はイ号物件の在庫物を加熱てこで改造したと主張するが、加熱てこによる加熱で破断誘導用割り口を完全に除去することは不可能に近く、また、個々の物品を熱加工するのであれば、既存の物品を粉砕の上原料として再利用して新たに製品を製造した方が経費も安くてできばえもよい。したがって、被告がイ号物件を改造したことはあり得ない。
また、被告は、イ号物件の在庫を約三〇万枚有しており、これを販売するおそれがある。
3 原告は、平成一一年三月に橋詰水産において検甲5のいかなご用容器を購入したが、これはロ号物件である。したがって、被告は本件実用新案権の登録後もロ号物件の販売を続けており、今後も販売するおそれがある。
五 争点6(損害の有無及び損害額)について
【原告の主張】
1 被告はイ号物件及びロ号物件を、本件実用新案権の登録後の平成一〇年五月一五日から少なくとも各六〇万枚計一二〇万枚を製造し、うち九〇万枚は販売を了し、残りの約三〇万枚を在庫として有し、販売しようとしている。この商品の利益は一枚当たり四円であるので、右商品の製造在庫により被告は少なくとも四八〇万円の利益を生み出しており、これが原告の損害と推定される。
2 被告は、本件実用新案権の登録後はイ号物件及びロ号物件を販売していないと主張するが、争点5についての原告の主張のとおり、いずれも否認する。
【被告の主張】
被告は、本件実用新案権の登録後は、イ号物件及びロ号物件を販売していないから、原告には損害が発生していない。この点は、争点5についての被告の主張のとおりである。
第四争点に対する当裁判所の判断
一 争点1(イ号物件及びロ号物件の形態模倣性)について
1 不正競争防止法二条一項三号にいう「模倣」とは、既に存在する他人の商品の形態をまねてこれと同一又は実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいい、客観的には、他人の商品と作り出された商品とを対比して観察した場合に、形態が同一であるか実質的に同一といえるほどに酷似していることを要する。
また、ある商品の形態が、不正競争防止法二条一項三号によって保護を受けるのは、資金、労力を投下して創作・開発した成果である商品を他者に先駆けて市場に提供したことによるものと解されるから、ある商品の形態が、当該商品の販売開始時点において既に市場に存在した形態と独自的形態からなる場合には、二つの商品の形態が実質的に同一か否かを判断するに当たって、独自的要素の部分に重点を置いて判断すべきである。
2 検甲1及び3によれば、原告商品並びにイ号物件及びロ号物件の形態は、別紙「原告商品1とイ号物件の形態」及び別紙「原告商品2とロ号物件の形態」のとおりと認められる。
証拠(甲2ないし7、証人【E】、被告代表者)によれば、原告商品やイ号・ロ号物件のような「いかなご用容器」は、水揚げされたいかなごを仲買人が湯通しをして消費地の市場へ運搬する際に使用される容器であり、古くは木製の箱が使用されていたが、昭和四七年ころから底を網目状にした、長方形型の偏平なプラスチック容器が用いられるようになったこと、その後複数のプラスチック製単位容器を連結し、湯通しをする際には連結したままで、小売段階で連結部材を切断して単位容器を分離する形態のものが現れ、一般的になったことが認められる。そして、各原告商品の販売開始前に検甲4の商品が販売されていたことは当事者間に争いがなく、検甲4の商品の形態は、別紙「従来品の形態」のとおりと認められる。
3 そこでまず、従来品1の形態を前提として、原告商品1の形態とイ号物件の形態の実質的同一性を検討するに、従来品1の形態によれば、原告商品1の形態のうち基本的な部分(全体形態、単位容器の基本形態、単位容器の底板の形態、側壁内面の形態、鍔部の存在、側壁外面の外リブの存在)については、既に従来品1に備わっていたことが認められる。したがって、原告商品1の形態が保護されるのは、右のような基本的な部分の形態を前提とした、単位容器のコーナー部、鍔部の位置ずれ防止リブの存在、連結形状等の細部の具体的形態にあると認められる。
しかるところ、原告商品1とイ号物件の形態には、別紙「原告商品1とイ号物件の形態」記載のように、それらの細部において形態の相違がある。とりわけ単位容器のコーナーの形態の差異は外観上目立つ部分であり、また、連結形状(連結部の形状及び位置)も、外観上は必ずしも目立たない部分ではあるが、原告商品1やイ号物件のように連結した単位容器を分離して使用する商品にあっては、相応の重要性を有する部位であるといえ、その差異は形態の実質的同一性の有無を検討するに際しては看過し得ないものというべきである。
以上からすれば、原告商品1とイ号物件の形態が実質的に同一とはいえない。
4 次に、従来品2の形態を前提として、原告商品2の形態とロ号物件の形態の実質的同一性を検討するに、従来品1の形態によれば、原告商品1の形態のうち基本的な部分(全体形態、単位容器の基本形態、単位容器の底板の形態、側壁内面の形態、鍔部形状、側壁外面の外リブの存在)については、既に従来品2に備わっていたことが認められる。したがって、原告商品2の形態が保護されるのは、右のような基本的な部分の形態を前提とした、単位容器のコーナー部や連結形状といった細部の形態にあると認められる。
しかるところ、原告商品2とロ号物件の形態には、別紙「原告商品2とロ号物件の形態」記載のように、それらの細部において形態の相違がある。とりわけ単位容器のコーナーの形態の差異は、四枚の連結容器全体を観察した場合、原告商品2では中央部に×状のリブが形成されるのに対し、ロ号物件では円模様のリブが形成され、これは外観上目立つ部分である。また、連結形状(連結部の形状及び位置)も、先に述べたとおり相応の重要性を有する部位であるといえ、その差異は形態の実質的同一性の有無を検討するに際しては看過し得ないものというべきである。
以上からすれば、原告商品2とロ号物件の形態が実質的に同一とはいえない。
5 この点について原告は、原告商品の形態上の特徴は、単位容器の隣接部に細長い短冊状の隙間が設けられて単位容器同士は分離しているような形状で、その二枚の容器が接触する鍔部の下部において両単位容器をつなぐ細幅の連結部が設けられている点にあり、原告商品とイ号物件及びロ号物件の形態は右の点で共通しているから、両者の形態は実質的に同一であると主張する。
しかしながら、前記のとおり連結部の形態が相応の重要性を有することは否定できないにせよ、形態の実質的同一性の有無を検討するに当たっては、連結部の具体的形態が実質的に同一といえるほどに酷似しているか否かを検討すべきであり、この観点から見た場合、原告の右主張は、形態を抽象化してとらえて比較しているもので、相当ではないというべきである。しかも、連結部の形状は、外観上は必ずしも目立たない部分であるから、より目立つ部分において具体的形態の相違があれば(例えば単位容器のコーナー部の形状)、形態の実質的同一性の判断に当たっては、それも考慮すべきものである。
したがって、原告の右主張は採用できない。
6 以上によれば、その余について検討するまでもなく、原告の不正競争防止法に基づく請求は理由がない。
二 争点3及び4(イ号物件の構成及び構成要件B充足性)について
1 まず、本件発明の構成要件Bの技術的意義について検討する。
(一) 乙15によれば、本件明細書には、次の記載のあることが認められる。
(1) 従来技術とその問題点について
ア 「従来の連結容器は、複数のプラスチック製単位容器からなり、各単位容器間に連結部材を介在させ、各単位容器を連結している。この連結部材は、可撓性を有するプラスチック製肉薄シートで、シートの左右端部を対応する単位容器の外面上部に連続して配備している。」(本件公報【0002】)
「使用に際しては、各単位容器内に魚介類を区分け収容した連結容器を、複数段積み重ねた状態とし熱湯で茹でる。その後、小売段階においては、連結部材をナイフ等の道具を使って切断して各単位容器を分離させ、分離した単位容器に魚介類を入れた状態で小売する。」(本件公報【0003】)
イ 「従来の単位容器では、可撓性を有するプラスチック製薄肉シートで各単位容器を連結している。この連結部材は、幅が大きいために各単位容器間の対向空間の面積が極端に小さくなる結果、茹でる際の熱湯の循環効率及び熱効率が悪く、魚介類の加熱温度にムラが生じる等の不利があった。また、各単位容器を分離させる際、連結部材を切断するのにナイフが必要であり、単位容器の分離作業が手間であるばかりでなく、広幅の連結部材を刃物で切り離す際、切屑が魚介類を収容する容器内に混入する衛生上の不利があった。」(本件公報【0004】)
(2) 本件考案の目的について
「この考案は、以上のような課題を解消させ、曲げモーメントによる曲げ力を連結部に作用させるだけで、極めて容易に連結部の括れ部を切断し得る連結容器を提供することを目的とする。」(本件公報【005】)
(3) 本件考案の作用について
ア 「このような構成を有する連結容器では、連結部を一定厚みを有する長方形の板体に設定し、縦長の両端部を単位容器の外面に連続させている。従って、単位容器の外面と連結部との接面(接続面)面積が大きいため固定強度が大となる。これにより、連結容器にかかる上下方向、及び左右方向の外力に対する連結部の強度が大きく、意に反して単位容器が分離する虞れがない。」(本件公報【0007】)
イ 「また、括れ部は単位容器に連続する連結部(長方形の板体)の左右端部に比して極端に厚みを薄く設定し、且つ短尺に設定してある。従って、括れ部の下端は連結部の左右端部の下端より上方に位置している。この結果、括れ部下端の下方は、左右端部の下端によって囲まれた空間部が開き、この空間が破断誘導用の割り口となっている。この割り口は、下凸方向の曲げモーメントによる集中荷重が最もかかる部分である。」(本件公報【0008】)
ウ 「連結容器の各単位容器を分離させるときは、隣合う各単位容器の上開口面が接面する方向へゆっくり曲げる。この曲げモーメントの曲げ力は、括れ部の割り口に集中荷重として作用する。曲げ角度が大きくなるにしたがい、括れ部の下部(割り口の上部)がひび割れ状となる。そして、隣合う単位容器の上開口面が接面する状態にまで曲げられたとき、括れ部が切断して単位容器が分離する。」(本件公報【0009】)
(4) 考案の効果について
「この考案では、以上のように、縦長の両端面を対応する単位容器の外面上部に連続させる連結部の中央部に、単位容器に連続する左右端部に対し厚みが薄く且つ短尺な括れ部を設け、この括れ部の下部には下凸方向の曲げモーメントにより集中荷重を受ける破断誘導用の割り口を備えさせることとしたから、単位容器間に介在する連結部は幅(厚み)が小さいから、隣合う単位容器間の対向空間となる平面形状が長方形の空間面積が大きくなり、茹でる際の熱効果が向上する。また、連結部を縦長に連続介在させることで単位容器と連結部との接面面積が大きく固定強度が大となる。従って、単位容器にかかる左右方向への引張力などによって連結部と容器とが意に反して分離する虞れはない。更に、括れ部の下端下方には、連結部の左右端部の下端に囲まれた空間状の割り口を設けたから、単位容器の上開口面を接面させる方向へ曲げ力をかけると、割り口に対し集中荷重が作用する。従って、単位容器の分離に際しては、必ず括れ部のみが切断される結果、単位容器と連結部との連続部(接続部)は棄損する虞れがないから、容器の外面保護を図れると共に、切断時の切断屑が容器内に混入する等の衛生上の不利も解消できる。また、単位容器の分離に際しては、隣合う単位容器の上開口面を接面させる方向へ曲げるため、複数の連結部の配設位置は選ばない。どの位置に連結部が配備されている場合であっても容易に切断し得る。更に、隣合う単位容器間には複数の連結部が介在配備されるが、単位容器の分離に際しては、ゆっくりとした一回の曲げ操作で同時に複数の連結部(括れ部)を切断し得、しかも連結容器を複数段積み重ねた状態でも一回の曲げ操作で同時に複数・複数段の連結部(括れ部)を同様に切断し得、単位容器の分離作業が簡単で且つ迅速に実行し得る等、考案目的を達成した優れた効果を奏する。」(本件公報【0025】)
(二) また、本件考案の出願時における連結容器に関する公知技術としては、乙1の1(昭六四ー二六四八号実用新案公報)及び検甲4のように、各単位容器間に長く薄い平らな連結部材が配設されている構造のものがあったことが認められる。
(三) 以上に基づいて検討すると、本件考案は、公知の連結容器の連結部のように、各単位容器間に長く薄い平らな連結部材が配設されている構造では、①各単位容器間の対向空間の面積が小さくなるために茹でる際の熱湯の循環効率及び熱効率が悪くなり、また、②各単位容器を分離させる際に連結部材を切断するのにナイフが必要であり、単位容器の分離作業が手間であるばかりでなく、③広幅の連結部材を刃物で切り離す際、切屑が魚介類を収容する容器内に混入する衛生上の不利があるという問題点があったところを、連結部の構造を、単位容器の外面上部に連続し、中央に括れ部、下部に割り口を有する縦長の長方形の板体とし、これによって、隣合う各単位容器の上開口面が接面する方向へ曲げて下凸方向の曲げモーメントにより割り口及び括れ部を破断させて単位容器を分離するようにしたことによって解決したものであると認められる。
この点について被告は、右のような構造のものは、乙22の1(意匠登録第八六六六四四号の意匠公報)及び22の2(意匠登録第八六六六四二号の意匠公報)により本件考案前の出願前に公知であったと主張する。乙22は「包装用容器」の意匠に関する意匠公報であるが、それらに示された包装用容器の各単位容器を連結する部材は、中央に両端よりも厚みが薄い括れ部様の部分があり、右括れ部様の部分は単位容器の上下方向のほぼ全長にわたって配設されており、右括れ部様の部分の上下端部分に割り口様の部分が設けられていることが認められる。しかし、乙22では、各単位容器を分離する方法については何ら記載するところがない。また、仮に乙22の記載から単位容器を分離する方法を合理的に推認するとしても、括れ部様の部分が単位容器の上下方向のほぼ全長にわたって配設されていることから、各単位容器を括れ部様の部分に沿って折り曲げて切断すると推認するのが合理的である。したがって、被告の主張は採用できない。
(四) そこで次に、構成要件Bの意義について検討する。
(1) 構成要件Bは、単位容器を連結する「連結部」が「中央部に括れ部を有する長方形の板体で、縦長の両端面がそれぞれ対応する単位容器の外面上部に連続」するものであるところ、まず、連結部を「長方形の板体」とし、かつ、「単位容器の外面…に連続」するものとしたことの技術的意義は、先に見た本件明細書の記載((一)(3)ア)からすれば、連結部を一定厚みを有する板体とし、その両端面を単位容器の外面に連続させることにより、単位容器と連結部との接面(接続面)面積を大きくし、連結部の単位容器に対する固定強度を大きくし、意に反して単位容器が分離しないようにした点にあると認められる。
これらからすれば、まず、連結部が「単位容器の外面…に連続」するものであるか否かは、括れ部を中心とする板体が単位容器の側壁又はそれと構造的・強度的に一体となる部分に連続していれば足り、袴部を有する単位容器の場合でも、連結部は袴部に連続している必要はないと解するのが相当である。
また、連結部が「長方形」の板体であるためには、中央に括れ部を有する板体が上下方向に一定の幅をもって連結部の外面に連続しており、その全体形状が長方形状又は長方形を含む形状のものであれば足りると解するのが相当であり、また、「縦長の両端面」が単位容器の外面上部に連続するというためには、連結部と単位容器外面とが固定強度が大きくなる程度の長さで接面していれば足り、必ずしも長方形の長辺側が単位容器外面に連続している必要はないと解するのが相当である。
(2) 次に、連結部が「単位容器の…上部に連続」するものとされることの技術的意義は、先に見た本件明細書の記載からすると、本件考案が隣合う各単位容器の上開口面が接面する方向へ曲げて下凸方向の曲げモーメントにより割り口及び括れ部を破断させて単位容器を分離するようにしたものであることからすれば、連結部の下部に設ける破断誘導用の割り口に下凸方向の曲げモーメントによる加重をかけやすいようにする点にあると認められる。そして、右よりすれば、「単位容器の…上部」とは、少なくとも破断誘導用の割り口が単位容器の高さの上半分の領域にあるように連結部が設けられていれば足りると解するのが相当である。
2 イ号物件は、別紙イ号物件目録添付図面の構造を有することにつき、当事者間に争いがないところ、そのイ部拡大断面図によれば、イ号物件においては、隣接する二つの単位容器の側壁からほぼ同じ高さの外リブが外方向に向けて設けられており、その外リブの中央よりやや上の部分が更に外方に突出して、双方からの外リブの突出部分が接する部分に厚みの薄い短尺の括れ部が設けられているとともに、括れ部の下端には割り口が設けられており、割り口が設けられている部分は単位容器の高さの上半分の領域にある構造を有していることが認められる。
このようなイ号物件の構造を本件考案と対比させれば、イ号物件の連結部は、括れ部及びそれとほぼ同じ上下幅を持つ外リブ部分が、隣接する単位容器の側壁外面に連続している長方形の板体であり、右部分より上下に延びた外リブ部分は、本件考案の観点からは、付加にすぎないものと解するのが相当である。被告は、イ号物件の連結部はH形であると主張するが、本件考案の技術的意義の観点から見た場合、イ号物件の外リブは、右のとおり、中央やや上の長方形の連結部と、単位容器連続側が上下に延設された付加部分の結合したものと把握するのが相当であるから、被告の右主張は採用できない。
また、右のように把握されたイ号物件の連結部の破断誘導用の割り口は、単位容器の高さの上半分の領域に設けられているから、イ号物件の連結部は、「単位容器の…上部に連続」するものであると認められる。
したがって、イ号物件は、別紙イ号物件目録記載のとおりの構成を有すると認められ、本件考案の構成要件Bを充足するものと認められる。そして、イ号物件が本件考案のその余の構成要件を充足することは当事者間に争いがないから、イ号物件は本件考案の技術的範囲に属する。
三 争点5(被告がイ号物件及びロ号物件を販売するおそれ)及び6(損害の有無及び損害額)について
1 イ号物件の販売について
(一) 記録並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 被告は、本件実用新案権が登録され、それに基づく請求が原告によって追加された後の最初の準備書面(平成一〇年八月三一日付け)において、「原告の本件考案の内容が明らかとなったので、被告は、次のシーズン(平成一〇年一二月頃から平成一一年四月頃まで)からは、本件考案の技術的範囲に属さないいかなご用容器を製造販売する予定にしている。」と主張した。
(2) 平成一一年二月一五日の第四回弁論準備手続期日において、被告は、「被告である有限会社川原商店が、今シーズン(平成一〇年一二月頃~平成一一年五月末頃まで)製造、販売する三枚物の包装用かご」として検乙2を提出した(被告平成一一年二月八日付け証拠説明書。なお、右証拠は第一四回弁論準備手続期日において撤回され、改めて検乙3として提出された。)。
(3) 被告は、イ号物件が本件考案の技術的範囲に属するか否かの審理が終了した後に最初に提出した準備書面(平成一一年七月二一日付け)において、再度、被告は、本件実用新案権の登録後はイ号物件の製造、販売を行っていないと主張し、平成一〇年度のシーズン(平成一〇年一二月ころから平成一一年四月ころまで)は、イ号物件の在庫品の連結部下部を加熱したこてによって平坦にして割り口を除去したものを販売したと主張した。
この加熱こてによる改造については、平成一一年一二月三日の第一二回弁論準備手続期日において、乙24(写真)及び乙25(図面)が提出され、改造の説明がなされるとともに、被告代理人は、その前後の弁論準備手続期日に実際に使用したこてを持参した。なお、被告は、その後の平成一二年二月一五日の第一四回弁論準備手続期日において、受命裁判官の釈明に答えて、加熱こてによる改造作業の様子を撮影したものとして乙26(ビデオテープ)を提出しているが、そこに撮影された内容は、乙24及び25で示されたものとは異なっている。
(4) 被告は、平成一二年二月一五日の第一四回弁論準備手続期日において、受命裁判官からの釈明(平成一一年一二月一七日付け)に答えて、イ号物件の金型改造にかかる証拠として、乙27(平成一一年一二月二三日付け株式会社石田金型製作所作成の被告宛見積書)を提出するとともに、改造された金型で作成した容器の現物として検乙5を提出した。
(二) 右に認定した事実経過からすれば、被告は、平成一〇年五月一五日に本件実用新案権の登録がなされ、そのことが原告の平成一〇年六月一五日付け準備書面によって明らかにされた後は、イ号物件を従来のままの形態では販売しておらず、平成一〇年一二月ころから平成一一年四月ころまでのシーズンには、乙24、25記載の方法による加熱こてによって割り口部分を加工した検乙4の商品を販売し、平成一一年一二月ころからのシーズンには改造金型によって製造した検乙5の商品を販売したものと認めるのが相当であり、被告が、本件実用新案権の登録後にイ号物件を製造、販売したことを認めるに足りる証拠はない(なお、イ号物件のようないかなご用容器の販売シーズンは、乙23、29及び弁論の全趣旨によると、毎年一二月ころから翌年四月ころであると認められるから、本件実用新案権が登録された後に被告がその事実を知るまでの間に従来のイ号物件を販売したことを認めることもできない。)。
この点について原告は、被告主張のようにイ号物件を加熱こてで改造することは費用及び出来映えの観点からあり得ないと主張するが、乙24、25及び検乙3に照らして採用できない。
したがって、本件実用新案権侵害に基づくイ号物件の販売による損害賠償請求は理由がない。
(三) 他方、弁論の全趣旨によれば、被告は、現時点においてもイ号物件の在庫品を大量に有していることが認められ、それらをそのまま販売しようと思えばいつでも販売できる状況にあるから、今後、右在庫品を販売するおそれはあるというべきである。
したがって、本件実用新案権に基づいてイ号物件の販売の差止めを求める請求は理由がある。
2 ロ号物件の販売について
(一) 記録並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 被告は、本件実用新案権が登録され、それに基づく請求が原告によって追加された後の最初の準備書面(平成一〇年八月三一日付け)において、ロ号物件は平成九年のシーズンから製造、販売していないと陳述し、この趣旨を平成一一年一〇月一五日付け準備書面で再言した。
(2) 平成一一年二月一五日の第四回弁論準備手続期日において、被告は、「被告である有限会社川原商店が、今シーズン(平成一〇年一二月頃~平成一一年五月末頃まで)製造、販売する四枚物の包装用かご」として検乙1を提出した(なお、右証拠は第一四回弁論準備手続期日において撤回され、改めて検乙4として提出された。)。
(3) 被告は、平成一二年二月一五日の第一四回弁論準備手続期日において、受命裁判官からの釈明(平成一一年一二月一七日付け)に答えて、ロ号物件の改造金型による現物(検乙4)を提出するとともに、平成一二年一月二八日付け準備書面において、ロ号物件については既に咋シーズン(平成一〇年一二月からのシーズンの趣旨と解される。)から金型を改造して破断誘導用の割り口を除去したものを製造、販売していると主張した。
加えて、被告は、平成一二年三月三一日の第一五回弁論準備手続期日において、乙29の1(株式会社石田金型製作所作成の平成一〇年一二月二五日付け被告宛請求明細書)、乙29の2(同請求書)、乙29の3(株式会社石田金型製作所作成の平成一一年二月四日付け被告宛領収証)を提出した。
(二) 右事実によれば、被告は、当初は平成九年のシーズンからロ号物件を製造、販売していないと主張していたものが、受命裁判官からの釈明を契機に、平成一〇年のシーズンからロ号物件を製造、販売していないと主張するに至ったものであって、その主張するところには一貫性がないといわざるを得ない。
しかし、平成一一年二月一五日の第四回弁論準備手続期日において検乙1(後の検乙4)が提出され、平成一〇年一二月ころのロ号物件の金型改造を示す書証として乙29が提出されていることからすれば、被告は、平成一〇年五月一五日に本件実用新案権の登録がなされ、そのことが原告の平成一〇年六月一五日付け準備書面によって明らかにされた後は、ロ号物件を従来のままの形態では販売しておらず、平成一〇年一二月ころに金型を改造し、以後改造後のものを販売したと認めるのが相当である。
この点について、原告は、平成一一年三月に橋詰水産から検甲5を入手したと主張するが、検甲5は、ロ号物件と類似しているものの、底面の網目形状や側壁の通水孔の形状がロ号物件と異なっており、両者は異なる金型で製造されたものと認められる。また、原告は、同時に検甲6を入手したと主張するが、この連結部の形状はロ号物件とは異なり、これもロ号物件とは異なる金型で製造されたものと認められる。また、乙23及び28によれば、被告は原告が検甲5及び6を入手したとする橋詰水産には、平成一〇年四月以降、四枚物の容器を販売していないことが認められる。さらに、検甲5及び6を、橋詰水産が被告から入手したことを裏付ける証拠は提出されていない。これらからすれば、原告が平成一一年三月に検甲5及び6を入手したことから、被告が平成一〇年一二月からのシーズン以降もロ号物件を販売したと認めることはできない。
したがって、本件実用新案権侵害に基づくロ号物件の販売による損害賠償請求は理由がない。
(三) また、弁論の全趣旨によれば、被告はロ号物件の在庫を保有していないと認められるから、ロ号物件の金型を改造した以上、被告がロ号物件を将来的に販売するおそれも認めるに足りない。
したがって、本件実用新案権に基づいてロ号物件の販売の差止めを求める請求も理由がない。
第五結論
以上によれば、原告の請求は、本件実用新案権に基づいてイ号物件の販売の差止めを求める限度で理由があり、その余については理由がないから、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官 安永武央)
別紙